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ミケはゆるやかに地面を蹴る。
体がふわりと浮き上がり、並の人間では考えられないほど高く跳躍した。まるで鳥が飛ぶように。
堀の中途で体が落ちかけると誰かが小さく悲鳴をあげる。
ミケはその誰かに、心の中で安心しろと呟いて再び中空を蹴った。
空中に体を支えるものなどなにもなかったはずなのに、ミケの体は再び勢いよく飛び上がる。
その姿に誰もが口を開け、目を丸くして見とれたようだった。
もはや言葉も出てこない。彼らの目は、都合三度ミケが宙を蹴り軽やかに壁の上へと降り立つまで常に見開かれていた。
ミケが彼らの前に降り立ったあとも、彼らは一様に目をぱちぱちとしばたかせ、ぼんやりとしている。
夢の中にでもいる心地なのだろうな。
ミケは使っていた魔法をすべて解除する。身にまとっていた逆巻く空気が消えると、はためいていた髪が重力に従ってふわりと落ちた。
続いてくるりと見張りのほうを振り向く。見張りは民衆と同じように目を丸くしていたが、ミケと目が合うとそのままの姿勢で指二本分ほど飛び上がった。
「ご苦労だった。引き続き、励んでほしい」
ぽんぽん、といまだにかたまったままの見張りの肩をたたき、ミケはひょいと壁の内側へ飛び降りる。
使い慣れている魔法の発動に時間はかからない。地面に衝突する直前で体を軽くする魔法を発動させ着地すると、ミケは壁の上を振り返り手を振った。
「皆、出迎えありがとう。体に気をつけて職務をまっとうしてくれ。風の導きがありますように」
そう言った瞬間、再び「わあっ」と大歓声が上がる。
勇者ミケを称賛する声を背中に受けながら、ミケは自分を呼びだした親友のもとへと歩いた。
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