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ファーレンシアは宗主国と銘打ってはいるが、教会が治めているわけではない。
教会がさまざまな寄り合いの中心となっていることはたしかだが、生活のありかたに対してあれこれ命令したり、決めごとを守らせたりしているわけでもなかった。
基本的に人々は皆争いごとが苦手で、困っている人は見逃せない気質を持っている。協力しあうのは呼吸するのと同じように自然なことで、そんな人々の集団がただ大きな街に集まっているため、国家のように見えるというのがファーレンシアだ。
教会に住民をどうこうするだけの権力はない。
だが、この街に魔物の襲撃がなく、人々の心が平穏に保たれているのは風神ファレスの加護があるためなのだというのが住民の共通認識でもある。
それゆえに、ファレス教の司祭やそれに準じる人間は住民たちから大切にされていた。
教会に権力はないが、権威はあるのだ。
だからさまざまな寄付の品が集まるし、教会の行事にはこの大陸のほとんどの人間が参加する。
そんなファレス教の司祭たちがもっとも優遇されているのは居住空間だろう。
もともと昔に建造された要塞をもとにしてる街であるため、古くからの建物や町並みがそのまま残っているのだが、そのなかのもっとも大きい建物がファレス教の拠点となった。
大きい建物というのはつまり、城である。
ファーレンシアは円形をした要塞であり、その中心部にこの城はある。
要塞の壁がしっかりと造られているせいか、城の周りに防壁は存在しない。よほど要塞の壁を信頼しているか、あるいはそれが破られたあと、無為に争いを長引かせることのないようにとあえて守りを薄くしたのか、ミケには判断がつかない。
だが戦いのための城ではないことはたしかなように思えた。
石造りの白い壁が美しく、華美な装飾のないたたずまいは洗練された野生動物を思わせる美しさをはなっている。
馬蹄の形をした外観の中央は庭になっていて、住民に開放されていた。
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