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昼のこの時間、円形の植え込みの周りには、走り回る子どもたちやそれを見守る大人の姿があった。
一人の子どもがミケの姿を見つけると、あとはもう芋づる式だった。きゃいきゃいと歓声をあげながら子どもたちが押し寄せる。口々に「ミケ様おかえりなさい」と、うれしそうに出迎え子どもなりの無遠慮さでミケに飛びつき、足りない言葉を体で補うかのようにめいっぱい親愛をあらわにする様子が微笑ましい。
ただいま。と笑いかけると、恥ずかしそうに笑み返してくるのもかわいらしく、ミケの胸はなんだかあたたかくなった。
周りの大人は最初こそ、勇者に無礼がないだろうかとはらはらとしていたが、ミケが穏やかに笑顔を浮かべている様子を見ると胸をなで下ろしてにこやかに笑っていた。
「ミケさま、あれやってあれやって!」
子どものひとりが無邪気にはしゃぐ。ひとりがはしゃぐと周りもはしゃぐ。
あれやって、あれやっての大合唱だ。
「仕方ないなあ、ひとつだけだぞ」
ミケがそう言って眉尻を下げながら笑うと、子どもたちは途端に黄色い歓声をあげて、ミケのすぐ近くにある植え込みの周りにつどった。
今日は本当に大盤振る舞いだな、と胸中で思いながら、ミケはその植え込みへと手をかざす。
意識を集中させると、あたたかく脈打つ生命力を感じられる。ほんの少しだけそのめぐりを早くすることをイメージして、ミケは魔法を発動させた。
途端に子どもたちの大歓声が上がる。
緑色一色だった植え込みの低木に、桃色の花が咲いたのだ。
わあわあとはしゃぐ子どもたちの頭を撫で、それじゃあ私は用事があるから、と声をかけると、子どもたちはまたそれぞれの言葉を振り絞ってミケを応援した。
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