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そのあたたかさに手を振って返し、大人たちにも会釈をしてからミケは城の正面を向いて歩く。
左右にも出入りができる扉はあるし、本当はそちらから入ったほうが目当ての人物がいる部屋には近いのだが、ミケはあえて正面の大扉へと歩いてゆく。
扉の左右に立っている見張りたちに軽く笑顔を向けて、ミケはご苦労さまと声をかけた。
扉を開けて中へ入ってゆくその後ろでは、見張りたちが「は、話しかけられた……ミケ様に……」「奇跡の技を間近で見るばかりかお声まで……」「……生きててよかった」と震える声を発していた。
北に向かう大扉をくぐると、正面には大きな広間と、奥に階段がある。数段上がると踊り場で、そこからは左右に階段が伸びていた。
広間は吹き抜けになっていて、高い天井がこの場をより広く見せている。
旧時代ではおそらく社交の場になっていたのだろう。たくさんの人々がこの場に集まるさまを、ミケはなんとはなしに想像する。が、ミケはここに踊りに来たわけではない。
「勇者ミケ」
ミケが目当ての場所へ行こうとしたとき、二階から声がかかった。
仰ぎ見ると、ちょうど二階正面の手すりにミケの知った顔があった。
「シールズ司祭長」
「勇者ミケ、帰ったのですね」
「ええ、ただいま戻りました。勇者ザクセンに呼ばれましたので」
「そうですか……励みなさい」
「ええ。精進いたします」
ほんの少し、居心地が悪いなとミケは思った。シールズ司祭長はこの教会の最高責任者だ。初老の男で、白髪。顔には幾重にも皺が刻まれている、物腰の穏やかな人物なのだが、勇者に対してよそよそしいのが常だ。
ミケはその少し悶々とする気持ちをシールズに隠しながら一礼し、再び目当ての場所へと足を向けた。
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