嫌がらせババア

5/22
前へ
/22ページ
次へ
縄は徐々に高速になり、床を打つ音だけを残して姿を消した。 「……なあ、今度は止めんなよな」 自転車の時に殴っておけば、コンビニでの嫌がらせは無かったかもしれない。 俺は木下に釘を刺した。 「それよりお前もジムに入れよ。その攻撃性を違う方向へ向けろ」 木下のはぐらかした返事が返って来る。 「それよりじゃねーよ。おめーだって同じ事されたら絶対殴るだろ」 その言葉に木下はピタリと縄跳びを止めた。 「俺は素人は殴らない」 そして今度は移動してサンドバックを叩く。 「だからって俺が殴んのも止めんなよな」 俺もベンチから立ち上がって木下の後ろに立った。 「ボクシングをやれば殴り放題殴れるぞ」 「んなだりーの俺がやるわけねーだろ」 「ならなんでジムに来るんだよ」 「見学だよ、見学」 木下が振り返り、ふっと笑ってまたサンドバックを叩いた。 数日後、細い道を歩いていると、何かが一瞬視線を遮り、すぐ足元で何かが砕けた。 それの破片が足にぶつかり反射的に飛び退く。 地面に砕けたそれは、土がしっかりと入った鉢植えだった。 「……あぶねぇ」 上を見ると、非常階段の三階から顔を覗かせている奴がいる。 「あのババア」 距離は遠かったが、はっきりとあの嫌がらせババアだと分かった。     
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加