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公衆電話
もう十年以上前の話。
当時住んでいたのは、おんぼろ四階建ての独身用マンションだった。
六畳一間でトイレも風呂も付いていないようなところだったけど、家賃だけは安かった。
当時最上階である四階に僕は住んでいたから、外出から戻ってきたら、当然階段を上がらなくちゃならない。
昼間でも薄暗い階段を上がっていくと、目に入るのが三階に置かれた公衆電話だ。
くすんだピンク色で、テレホンカードすら使えない。
その当時でも携帯電話が普及していたから、誰かが使っているところなんて見たことが無かった。
もちろん僕だって一度も使ったことはない。
だが電話は時々鳴った。ジリリリリンというけたたましい呼び出し音は耳に響く。
初めて聞いた時には部屋の中で飛び上がった。
階段のすぐそばの部屋を借りていたおかげで、電話が鳴ると良く聞こえるのだ。
かかってくるのは大抵夜中。
それに決まって十回コール音が鳴って、それで切れる。
ある時、たまりかねて大家さんに苦情を言ったら、首を傾げて眉をひそめた。
「おかしいわね。あの電話、壊れているはずなんだけど」
そんなはずは無い。鳴っている、というと、撤去を考える、と言ってくれた。
ただ、それからの日々は心穏やかではいられない。
なんで壊れているのになるんだ。それも決まって十回。
絶対おかしい。そう思ったけど、確かめる勇気はなかった。
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