公衆電話

1/2
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

公衆電話

 もう十年以上前の話。  当時住んでいたのは、おんぼろ四階建ての独身用マンションだった。  六畳一間でトイレも風呂も付いていないようなところだったけど、家賃だけは安かった。  当時最上階である四階に僕は住んでいたから、外出から戻ってきたら、当然階段を上がらなくちゃならない。  昼間でも薄暗い階段を上がっていくと、目に入るのが三階に置かれた公衆電話だ。  くすんだピンク色で、テレホンカードすら使えない。  その当時でも携帯電話が普及していたから、誰かが使っているところなんて見たことが無かった。  もちろん僕だって一度も使ったことはない。  だが電話は時々鳴った。ジリリリリンというけたたましい呼び出し音は耳に響く。  初めて聞いた時には部屋の中で飛び上がった。  階段のすぐそばの部屋を借りていたおかげで、電話が鳴ると良く聞こえるのだ。  かかってくるのは大抵夜中。  それに決まって十回コール音が鳴って、それで切れる。  ある時、たまりかねて大家さんに苦情を言ったら、首を傾げて眉をひそめた。 「おかしいわね。あの電話、壊れているはずなんだけど」  そんなはずは無い。鳴っている、というと、撤去を考える、と言ってくれた。  ただ、それからの日々は心穏やかではいられない。  なんで壊れているのになるんだ。それも決まって十回。  絶対おかしい。そう思ったけど、確かめる勇気はなかった。    
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!