死花少女

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ラッホールの花を散らした方は、彼女が嫌々お逢いしたお見合いの方でした。ルート地方で時計屋を営んでいる職人さんで、腕も良いからと両親から勧められたのです。ラッホール自身は絶対に断るのだと声高に宣言しておりましたが、ひと目で花を散らしました。恥ずかしそうに前髪で目元を隠そうとする仕草が可愛かったと、容疑者は申しております。 我が国にだけ存在する、胸の花というのも今考えてみると不思議なものでございます。物心つく頃に、必ず右胸に生える花。それは人によって違います。ラッホールは芙蓉でしたが、私は紅薔薇。クラスメイトたちはかつて胸に咲いていた花はカサブランカだ、チューリップだ、ラベンダーだと懐かしげに語ります。おばあ様は白薔薇だったそうで、私とお揃いのような気もしてくるので、なんだか嬉しいです。 胸の花は、恋に落ちると散りますね。不思議です。クラスメイトのほとんどが、すでに花を散らしております。なので、学園で胸に花を咲かせているものは偏見に合うと、服の下に隠してしまう者がほとんどですが、わたくしは隠しません。この胸に咲く、気高き紅薔薇を自慢にしております。 目蓋は紅く濡れ、唇も頬もまるで恋に落ちたかのように朱色に染まっていながら、まだ恋を知らないなんてと馬鹿にされることもありますが、わたくしが恋に落ちるべき相手が、この世には存在しておりません。 おばあ様はまた悲しい顔をされるかもしれませんが、私は誰にも恋をしたくないと、固く誓っております。     
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