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ファルファがおばあ様に預けられたのは、わたくしが八歳、あの子が六歳。叔父様の再婚相手の方の連れ子で、新婚旅行に邪魔だからと家に来て、それから預けっぱなし。逢ったばかりのファルファの怯えようは、今では笑い花しです。あの子に初めて逢った日も、満開の櫻が綺麗に咲いていて、それでも彼の胸に咲く櫻が一等美しくて、私はいつまでも見惚れていたものでした。
わたくしは弟のように彼を可愛がり、彼もわたくしを姉のように慕ってくれましたが、十二歳の時、叔父様の三回目の離婚のせいで、離れ離れになったことは、今でも思い出すだけで心を締め付けられます。
「約束、絶対に守るから」
泣きじゃくる私を慰めるように、ファルファは真珠のひと粒も目から零さずにそう云いました。お恥ずかしながら、わたくし、この約束がなんだか覚えておりません。当時はファルファ花す言葉や表情の動き、そして指先から匂いたつ甘い香りにばかり注意がいって、彼の難しげな科学の話に、つい上の空になっていたものですから。
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