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ファルファは櫻色の髪に櫻色のつぶらな瞳の持ち主です。三人で仲睦まじく暮らしていた時には、彼の櫻がどれほど心を慰めたことでしょう。派手やかなわたくしの薔薇とは対称的に、ファルファの花は櫻でした。東洋の血をわずかに引いているからこそ、彼の花は、この国にはない儚さと気高さがありました。彼の櫻がいつまでも枯れなければいいと、何度思ったことか。彼の心の純潔を守るためなら、サタンにもなろうと幼心に誓ったものですが、悲しきことに、彼は遠き東南へ行ってしまいました。別れらしい別れもできず、手紙を書こうにも所在も知れず。おばあ様とわたくしの泪で、海ができるほどでしたね。
昔話と鑑賞に浸ってしまい、ファルファの現状についてはちっとも書いていませんでした。きっと知りたくておばあ様が珍しくポルカでも踊りだそうとしているところでしょうに。
ファルファは私が下宿しているベルタル邸に越してきたのです。ベルタルさんのお家は没落貴族のお屋敷を買い取ったものなので、一階もそうですが二階だけでも部屋数がかなりあります。下宿としては最適ですが、学園から徒歩三十分という距離にお嬢様お坊ちゃんたちは辟易するようで、ここで下宿する者は変わり者とレッテルを貼られます。けれど、わたくしはこの三十分が大好きです。四季折々で林道の花や草が姿を変えていき、散歩をしている近所の方々とも顔なじみになったので、時折焼きたてのクッキーやら採れたての苹果などを頂戴します。三十二番通りなんて冴えない正式名称もなんのその、わたくしは「栄えある幸せロード」と呼んでいます。
また花しが逸れました。ファルファのことに話を戻しますよ。
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