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「俺の頭なんだから大事にしてくれよ。……それにしても、ほんと器用だよなぁ」  自分がかぶる予定の頭に傷が無いかを確かめた彼は、その出来栄えに感心した。 「どんな感じかな?」  幸い傷が無かったジャックを、試しにかぶってみた。表はきれいに整っているが、裏はまだで、ちょっと動くたびに剥き出しの新聞紙がガサガサと耳障りな音を立てる。しかし、素人目から見ても素直に上手いと思える完成度ではあった。 「鏡は……無いか。残念」  学生服にカボチャ頭という今の姿を客観的に確認したくて鏡を探すも、見当たらなかった。窓ガラスを鏡の代わりにしてはと考えるも、逆光で見えなかった。  彼女が目を覚ましたら、スマートフォンのカメラで撮ってもらおう。そう思い、振り返ると、寝ていたはずの彼女が頭を上げていて、寝ぼけた様子でこちらを見つめていた。 「よっ、おはよう。ほら、太陽がもう真っ赤だぞ。早く帰らんと、おばさんにまた変に疑われて、夕飯に赤飯を出されるぞ」  カボチャ頭の下で苦笑する彼。一方の彼女も笑った。 「アハハ、あんときはびっくりしたよねぇ。ほんと困っちゃったよぉ……って、あひゃあっ!」  彼女は急に奇声を上げ、弾けるように席を立った。その勢いで椅子が倒れて大きな音を立てたので、彼は驚いてしまった。     
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