東京で生きる私

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東京で生きる私

今の私は、普通の20代の女性と変わらぬ平凡な日常を送っている。 2年前に結婚した夫と平凡な日常を送っている。 特に特筆するところのない、主婦だ。 昼は会社で働き、家事をして、夫を送り出し、出迎える。 そんな日々だった。 世間ではそれを幸せというのだろう。 ぼんやりした頭で考えながら、それでもなお忘れることができず時々寝覚めの悪い夢にうなされる。 それを繰り返しながら。 ほんの気まぐれで去年応募した、主婦雑誌の読者モデルのオーディションで、私は賞を獲得し、話題の女性誌に時々掲載される自分を手に入れた。 常々SNSでなんらか書かれていて、すこし嬉しい自分がいた。 自分自身が抱えている秘密は、夫も友人も誰も知らない。 どこかで隠し事がある偽りの自分にも、居場所ができたような気持ちになって少しホットしていた。 優しく、旧帝大を出た欠点という欠点が見つからぬ理想の夫は私の過去は知らない。なにも。 そこが私という女のずるさかもしれないと思いながら、知らぬ方が幸せなこともある。 と、そっと胸にしまった。 そんな自分を知りたくてなんとなく自分の名前をインターネットで検索することに最近ハマっていた。 読者からの反響を見たくて、最初は何気なく検索していた。 かわいい。 憧れ。 そんな言葉が並んでいて、とても感動した。 偽りの自分自身が、たくさんのひとに認められることで居場所を得たことにホットしていた。 どんなことをすれば、世間にインパクトが得られるのか、 最近はもっぱらそれが知りたくて、紙面に載っている自分の反響が知りたくて最近は毎日覗いていた。 ある日の私は、同じく。 読み進め、閉じようとしたその時だった。 「ワタシハお前の10年前のあなたの真実を知っている」 SNSのコメント欄の書き込みを見た手が思わず止まる。 まさか、 と自嘲気味に笑った。 今の私を知っている過去の人はもういない。 まさか。そんなはずはない。 ないのだと。 そう思って私はブラウザを閉じた。 気のせい。きっとだれかのいたずら。 そう思い込むことで自分を抑えることしかできなかった。
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