夫がおかしい

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キッチンに卵と牛乳とお砂糖の甘い香りと、パンの焼けるこうばしい香りが混じり合い、私は幸福な気分に包まれた。 「お待たせ。出来たよ」 サクランボの絵が書かれたお皿にフレンチトーストを二切ずつのせてリビングに戻ると、夫はラグに寝転んだまま、私を見上げ「ありがとう」と微笑んだ。 「ありがとう」などという言葉を夫に言われ慣れていない私はなんと返していいかわからず、曖昧に笑う。 エプロンをはずして夫のそばに座る。 真っ白いチュールスカートが赤黒く汚れてしまったけれど、あとで洗えばいいや。 欠けてしまった包丁の刃もついでに研いでおかなくちゃ。 「食べようか」 身体中を真っ赤に染め、瞳を開いたまま空虚な世界を見つめ続ける夫を見下ろして笑いかける。 暴力的で嫉妬深くいつも私を馬鹿でつまらない女だと罵っていた夫はどこかへ消えてしまったけれど。 「おいしいね」 しあわせだから、まぁいいか。
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