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「せやけどな……」と、父の後を伯父が受け継ぐ。
「その時、祖父さんにはすでに10歳になる息子がおったんや。そのせいで親父は随分と肩身の狭い思いをしたようやな。子供のころの写真がないんもそのせいやろ。ところが、その息子っちゅうのが二十歳になる前に交通事故であっけなく死んでしもた。で、その代わりに親父がこの家を継ぐことになったってわけや」
「お祖父ちゃん、苦労したんやねぇ……」
呟くように言ってから、従姉妹がこちらに手を伸ばす。
「それ、貸して」
アルバムは再び彼女のもとへ。
「それにしてもよう似てるわ。誰なんやろ、これ」
首をひねる従姉妹の隣から覗き込んでいた父が「そう言えば……」とアルバムを奪い取った。
「この背景に写ってる神社さ、もしかして、あの神社かな?」
彼はそれを伯父の方に差し出した。
ああ、そうやなと写真を眺めていた伯父の口から予想外の言葉が出る。
「これ、神隠しの神社やな」
「神隠し?」
「せや。わしらが小さいころの話やから、もう随分昔のことや。この神社で遊んでいた子供が何人か立て続けに戻らなんことがあってな。時代が時代やから、そら神隠しや言うて大騒ぎになったんよ。おかんなんぞは、一人であそこに近づいたらあかんて、口酸っぱく言うたもんや」
「でも兄さんはこっそり行ってたけどな」と父。
「あかんと言われりゃ行きたくなるやろ」
伯父はガハハと豪快に笑ってビールを手に取った。
「お父さん」とヨシフミが私の服を引っ張った。なんだと問うと、眠いと答えが返ってきた。
「あの、すみません。そろそろこの子を寝かしつけないと」
場を見渡しながら言うと、伯母が「あらあら」と席を立つ。
「もうこんな時間やね。離れに部屋を用意してあるから、案内するわ」
皆に挨拶をしてから、息子の手を引き、伯母の後に続いた。
葬儀も無事終わった。その足で東京に帰ることにした。荷物をまとめ門扉を出ると、バタバタと慌ただしい足音が追いかけてきた。
「ごめんごめん。忘れるとこやったわ」
駆け寄ってきた伯母は提げていた紙袋を私に差し出した。中を覗くと、カメラ……むき出しのポラロイドカメラが入っていた。新品のフィルムと一緒に。
「これは?」
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