ヨシフミ

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「おじいちゃんの部屋で見つけたんよ。必ずあんたに渡すようにってメモと一緒に」  チラシの裏に書かれた文面をこちらに向ける。晩年のものだろう。握力がないのか、ミミズが這ったような文字が並んでいる。 「どうして?」 「さあ……」と彼女は首をひねった。  なになにと言ってヨシフミが紙袋を引っ張るので持たせてやる。 「とにかく、渡したからね」  伯母は確認するようにそれを指さしてから、 「ほな、気ぃ付けて。さよなら」  そそくさと家の方へ戻っていった。  しばらくそれを見送ってから、息子の手を引いて歩き出す。  バス停まで20分ほど行かなければならない。 「ねぇ。写真撮ろうよ」 「うん。家に帰ったらな」 「これ、すぐに写真ができるの?」 「そうだよ。ポラロイドだもん」  たわいない会話をしながら道のりの半分まで来たところで、赤い鳥居が目に留まった。鬱蒼とした杜を背負って建っている。あれはもしかして……。 「神隠しの神社かな」  思わず口に出たセリフを息子が拾う。 「カミカクシって?」 「人が急にいなくなるんだよ」 「どこかへ行っちゃうの?」 「そうだな」 「どこへ?」 「さあ……どこだろうな」  無意識のうちに道を逸れ、神社の方へと向かっていた。    鳥居をくぐると見覚えのある社殿があった。私そっくりの男が立っていた場所。そこまで足を運んで心を決めた。 「そうだヨシフミ。写真、撮ってくれるか」 「うん」と嬉しそうに見上げる息子の手からカメラを受け取り、フィルムをセットしてから返した。 「撮り方、わかるか?」 「それくらいわかるよ」  言いながら彼は距離をとっていく。振り返り、構えてから、いくよと言った。いちにぃさんと同時にシャッターを切る。生い茂った木のせいで光量が足りなかったのか、フラッシュが光った。 「僕も撮って」  吐き出された印画紙をペラペラ振りながら、息子はこちらに向かってくる。すれ違いざまにカメラだけを受け取り、彼が立っていた場所まで進んで振り返った。
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