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いない。ヨシフミがいない。
「おい、どこ行った」
いくら息子の名を呼んでも、返事が聞こえることはなかった。
東京から飛んできた妻は狂ったように泣き叫んだ。
「どうしてあの神社に行ったんだ」
「神隠しがあったと言うたやろう」
父や伯父は私を責めた。
みな必死になって探し回った。村を上げての大捜索だ。
どこへ行ったと人は言うけれど、私には見当がついていた。伯母からカメラを受け取った後、神社を目にした瞬間にすべてを悟ったような気がしていた。だから自然とそちらに足が向いたのだ。
私は、わかっていながら息子を送り出したということになる。そうしなければならないという強迫観念めいたものがあったからだ。もしも私が行動を起こさなければ、私自身の存在も危うくなるのだから。私だけではない。父も伯父も、そしてヨシフミ自身の存在も。
息子は神隠しにあった。そして過去の世界に迷い込んだのだ。そこで彼は自分の状況を説明しようとしたはずだ。しかし少年の言葉は、あの頃の人間には世迷い事を口走っているようにしか聞こえなかっただろう。誰にも理解されぬまま放浪するうち、彼は私の曽祖父に拾われ、その家の子となった。その時手にしていたものは撮ったばかりの写真だけ。唯一、自分と元の世界をつなぐ鍵だ。それを彼は肌身離さず持っていたのだ。歳を重ね、天寿を全うするまで。後に伯母の手でアルバムに貼られることになったその写真こそ、ヨシフミがポラロイドカメラで撮ったもの。つまり数時間前の私の姿だ。
幼いころ、若い時分の祖父に似ていると言われたわけだ。私と彼は親子なのだから。
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