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ある日、家に帰ったら、ベッドに丹波哲郎が刀を担いであぐらをかいて座っていた。
もちろん、これまで実物に会ったことはないし、亡くなった今は会えるはずもなかった。だいいち特にファンだったわけでも興味があったわけでもない。
白装束に総髪という格好の丹波さんにおそるおそる丹波哲郎さんですかと聞いたら、例の腹式発声でそうだと答えて、そのまま目を半眼にしたままじっと座っている。
主演した「忘八武士道」の役の恰好だなと、やっと気づいた。役名がふざけている、明日死能=あすしのうというのだ。コメディではない一応シリアスな時代劇のこの名前は何だろう。
亡くなった歳よりかなり若く見えるので、霊界での姿は生前の一番いい時の姿だと「大霊界」で書かれていたと思いましたが、この時の姿が一番良かったのですかと聞くと、それはなんのことだと逆に聞き返されてしまった。
困った。
と、丹波さんがいきなり刀をすらりと抜き払ったので、あわててとびすさったが、そのまま刀をじっと眺めて「生き胴を払うには、この柱が邪魔だな」と呟いて、またもとの鞘に収め、そのままごろりとベッドに横になってしまった。
あしたも早いのに、そこにいられてはぼくが眠れませんとおそるおそる申し出たが、意に介さずもう高いびきをかいている。仕方ないので、その横に潜り込んで眠って目がさめたら、いなくなっていた。
あれはなんだったのだろう。
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