詰まる音

2/4
前へ
/4ページ
次へ
 その日は残業で、最終バスに乗れなかった。 疲れた体を引き摺るようにして帰路に着く。 「あの公園を突っ切れば近道だ」と教えてくれたので、私は公園の中を通り抜け帰ることにした。  六月に入って間もないというのに蝉が鳴いていた。 額にじっとりと滲み出る汗をハンカチで拭う。 ガポ……ゴポ……  不意に、そんな音が耳に届く。 水の流れる音と、空気が弾けるような音。 どこかで水が詰まっていると思った。 音のする方を見ると、壁面が黒く汚れている公衆トイレが目に入る。 誰かが手洗い場の排水口を詰まらせたのかもしれない。 ガポ……ゴポ……  深夜の公園に、その音はやけに響いた。 気が付けば蝉も鳴き止んでいる。 見て見ぬ振りをするのも後味が悪い。 私は公衆トイレに向かって歩を進めた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加