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その日は残業で、最終バスに乗れなかった。
疲れた体を引き摺るようにして帰路に着く。
「あの公園を突っ切れば近道だ」と教えてくれたので、私は公園の中を通り抜け帰ることにした。
六月に入って間もないというのに蝉が鳴いていた。
額にじっとりと滲み出る汗をハンカチで拭う。
ガポ……ゴポ……
不意に、そんな音が耳に届く。
水の流れる音と、空気が弾けるような音。
どこかで水が詰まっていると思った。
音のする方を見ると、壁面が黒く汚れている公衆トイレが目に入る。
誰かが手洗い場の排水口を詰まらせたのかもしれない。
ガポ……ゴポ……
深夜の公園に、その音はやけに響いた。
気が付けば蝉も鳴き止んでいる。
見て見ぬ振りをするのも後味が悪い。
私は公衆トイレに向かって歩を進めた。
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