5人が本棚に入れています
本棚に追加
パーン!
「あれぇ? おかしいな」
不動産めぐりの最中、三件目のアパートの一室で私は違和感を覚えていた。
「どうかなさいましたか?」
不動産業者がいぶかしげに私を見る。
「いや、そのぉ、たいしたことじゃないんです。ちょっとした、まじないみたいなもので……」
「まじない……ですか?」
知り合いから教わった方法を軽い気持ちで試してみた。
「妙な気配を感じたららこういうふうに手を叩くんです。霊とかその類の物がいる部屋っていうのは、音の響き方が違うって言うんですけどね」
玄関からダイニングキッチン、風呂場、トイレ、そして奥の部屋で手を叩く。確かに、奥の部屋だけ、反響がおかしい気がする。家具の置いていない部屋は大概、手を叩いた反射音がまっすぐ返ってくる。しかしこの部屋だけは音が何かに吸い込まれたかのように返ってこない。私は違和感の正体を探ろうと、しばらく気になる部屋を静かに眺めていた。
「お客さん、もう少し見ますか?」
私は失礼なことをしてしまったと思いながら、もう結構ですと言って切り上げた。不動産屋は戸締りを確認し、私は先に部屋の外に出た。どうにもあの部屋が気になって外から中の様子をうかがっていた。不動産屋はズボンのポケットからカギを取り出して戸締りを始めた。私は一歩下がり、不動産屋の肩越しにドアが閉まるぎりぎりまで部屋の中を覗いていた。”ガチャ”とドアが閉まる瞬間”チィっ”と誰かが舌打ちをしたような音が聞こえた。”あれ?”と私は声を上げた。不動産業者は鍵を差したまま怪訝な顔で振り向いた・
「どうかされましたか?」
「いえ、別に……」
彼は、客の前で舌打ちをするような失礼なことをするような男ではない。だとしたら、今の音は一体誰の……。
最初のコメントを投稿しよう!