お部屋探し

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 結局私は最初に見たアパートを借りることにした。それから数年経ったある日、その時の不動産業者と隣町のスナックで偶然一緒になった。 「その節はお世話になりました。そういえば、あの時の候補だった……最後に見た物件、覚えてますか?」 「えー、私が手を叩いて……」  パーン!  私はあのときのように、手を叩いてみせた。 「もう、時効なんで、お話ししますけどね。私、聞こえたんです」 「聞こえた?」 「あの部屋を出るときに確かに聞こえたんです。ドアを閉めて、カギを掛けようとしたとき……」 「チィっ!」  私は、舌打ちをして見せた。  不動産屋は目を丸くして、私を見つめながら、パーンと手を叩いて見せた。 「これ、なかなか、いいですね。わたしも自分の部屋を選ぶ時は、やってみることにします」 「お客さんには勧めないんですか?」 「えぇ、勧めません」 「そうですか」  不動産屋はにんまりと笑いながら言った。 「えぇ、そういうものです」
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