見える子

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見える子

 長患いをしていた祖父が亡くなった。  通夜、葬儀と出席し、焼き場へ行く前に皆で最後のお別れをしたのだが、式場にいた親類の中で、一番小さな女の子が妙なことを言い出した。 「箱の中のおじいちゃんと同じ顔のおじいちゃんが、一番後ろの椅子に座っているの」  その子の言う椅子を見ても、そんな人物はどこにもいない。  女の子の母親は、おかしなことを口走る娘を慌てて叱ろうとしたが、周りが、もしかしたら故人が皆に最後の別れをしに来ているのかもしれないと言い、式場を去る際、誰もがその椅子に一礼して会場を後にした。  焼き場で祖父の亡骸は火葬され、遺骨を骨壺に収めた後、私達は式場へ戻った。  先刻、祖父の葬儀が行われていた会場の脇を通り、奥の控室に向かう。その途中で凄まじい悲鳴が上がった。  何事かと窺うと、あの小さな女の子が床に倒れているのが見えた。  口から泡を拭いたその様子は見る限り尋常ではなく、式場に、母親が大声で女の子を呼ぶ声と、救急車を呼べだの女の子を別の部屋に運べだのという声が入り乱れた。  女の子が倒れたことにより、かなり尻切れトンボな感じで祖父の葬儀は終了した。  以降、私はあの子を見かけていないけれど、他の親類に聞いた話では、意識を取り戻したはいいものの、女の子はかなり錯乱状態で、ひたすら『怖い』と泣き叫ぶばかりらしい。  みんな、女の子がどうしてそんなことになってしまったのかと不思議がっているけれど、焼き場に向かう前のやりとりが、私な一つの推測を立てさせた。  祖父の霊が見えたあの子は、もしかしたら、『火葬された後』、もしくは『火葬の途中』の祖父を見てしまったのではないだろうか。  まさか本人に聞けないし、周りに言っても何をバカなと言われるだけだろうから黙っているけれど、あの子の様子を見た限りでは、それが真相なのではと私は思っている。  霊が見える系統の人は色々大変だというけれど、この考えが事実なら、本当にその通りだと思う。 見える子…完
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