day1

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親と喧嘩をした。 理由は割と月並みで、高校に進学したら島を出て本土の学校に行きたいと言ったのだ。 しかしうちは裕福ではない。むしろギリギリの生活を余儀なくされる程度に貧しかった。別段片親がいないとか、借金が多いとかではなく、単に島の漁師は稼ぎが薄いのだ。そんな家庭の娘が本土の学校に行きたいと言っても無理があった。 一応島にも高校はある。しかし現状の全校生徒数6名のうち5名が男子。好きこのんで男に囲まれた3年間を送りたい女子はいない。まぁハーレム願望でもあるなら話は別か。 つまり、島の高校に通うのはお金のない家の子だけなのだ。そして島の高校の卒業生は現在確認できる範囲で100%が島で就職、とゆうか家の仕事を継いでいる。 その未来を想像するだけで絶望した。そんな人生に縛られるのは真っ平ごめんだと、つい勢いで親に言ってしまい、謝るに謝れず、いたたまれなくなって家を飛び出した。 島は狭い。住人総出で探せば大抵どこにいても1日もあれば見つかるだろう。だからこんな事など家出の範疇にも入らないのだが、それでも家を出るという具体的な行為は自分を慰める手段として間違ってはいなかったと思う。 得体の知れない恐怖と、認識できない焦燥に駆られて気づいた時には、あまり見慣れない場所にいた。港の向こう。灯台の下の浜辺に続く道だった。 距離的には20分くらい走っていたのだろう。もう息も絶え絶えで辺りを見回しても家への帰り道が分かってしまう自分が厭だった。 こんなところ、探せばすぐに見つかるだろう。だが自分から帰る気は無かった。どうせなら見つけてもらうまでここで海でも眺めていようかなと、地面に腰掛けようとした時、不意に声をかけられた。 「あのー…」 もう見つかったのか。そう思って辺りを見回すが声の主は見つからない。もう一度同じ言葉が聞こえて来て、それが下の浜辺からのものだと気づいた。 「すみません。民宿あらたってとこ、ご存知ですか?」 落ち着いた低めの声の中にも若さを感じるそれは、同年代の男子よりも大人な感じがした。声の主を見ると、想像通りな男性__おそらく高校生くらいだろう__がこちらを見上げていた。 …
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