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風の吐息が木々を揺らし、草花が声なき声を上げて光を求める。
神の流した泉からの雨を期待し、植物は地中に生える根を瀬一杯伸ばす。
遥か彼方の黄色の大地には、眠たげな太陽が顔を覗かせている。
そんな緑に栄えた森林内に、早朝から鍛錬に励む青年が一人いた。
「ふっ、ふっ、ふっ」
側には緩やかな小川が流れ、青年の体躯よりも数倍巨大な岩が依然として、水の流れに逆らっている。
青年はただひたすらに片手を岩上に着き、逆立ちの状態を保ちつつ腕立てを行う。
「ふっ、ふっ、ふっ」
この場にはもう1人。澄み切った川の水に足をつけ、此方を見詰める者が。
その者は、薄汚れた大地とは違い、清らかな漆黒のドレスを着込んでいた。その炎々たる紅色の長髪を揺らし、その者は言った。
「なぁ、えん。これから何処に向かうのだ?」
「ふっ、ふっ、ふっ」
病気染みた白い肌に、何処かしら力強さを感じさせるその様相。
「何故、わざわざ効率の悪い訓練などするのだ?」
「ふっ、ふっ、ふっ」
銀に輝く頭髪はとうに汗で濡れ、岩の上には既に相当量が染み渡り、その雫に朝日が反射する。
「私は、腹が減ったぞ」
その言葉に俺は妙に納得し、数千回反復した腕を休ませる。
「ふぅ――――そうだな。イル、そろそろ飯にするか」
腰に巻いた布で汗を拭き取り、岩陰に置いていた茶色の軽服を着る。
丁度その時、木々の中から姿を現す獣がいた。2、3ラッドはあるであろう体躯。銀色に輝く毛並みは柔らかな風に揺られ、その獰猛な口には野兎が咥えられている。
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