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「ガル。いい子だ」
蒼色の瞳を細め、頭を撫でられる獣。こいつは、イルと共に旅を共にしている竜犬。
竜の如く速さで大地を駆け回り、獲物を喰らう魔の存在。
「お主ばかりずるいぞガルっ! 私にもその兎をくれっ」
ガルル ガルッ
「なんじゃと? おいっ。無視するでないっ」
同種のようにじゃれ合う2匹を尻目に、俺は朝食の準備を始める。
料理と言っても、昨夜作った汁物を鍋で温め、干し肉とパンを用意するだけという簡素なもの。
焚き火で鍋を温めながら、巨大な背負い袋から大量のパンと干し肉を取り出した。
「ほほぉ、良き匂いだ」
「食うぞ」
汁物を木の器に掬い、手元に少量のパンと干し肉を置く。
少し逆流する疲労を落ち着けながら干し肉を口に咥え、パンを頬張って汁物で流し込んだ。
「もふっ、もふっ――やはり、えんの作る汁物は旨いのぉ」
イルは汁物の入った鍋ごとを口元に持っていき、大量の干し肉を一度に頬張る。
細身のその体格とは裏腹に、次々と食べ物を飲み込んでいく彼女。
毎度、その高価な黒のドレスを汚してしまうのでないかと、不安になることがあるのは秘密だ。
旅路の格好としては異様だが、長らく付き添っている俺には見慣れた光景。
ガルルル
「どうしたガル?」
口元を器用に舐めていたガルが身を寄せてきた。咄嗟に、食後のあれを与える時間だと気がついた俺は、腰についた布袋に手を突っ込む。
取り出したのは、くすんだ緑色の玉。
「ほら、食べな」
ガルルル
一口にその玉を食べたガルは、鼻を鳴らすと側に腰を落ち着けた。
「その犬も健気だのぉ」
「食べたならその器をくれ」
汁物の入っていた鍋と木の器を川の水で洗い、背負い袋に仕舞い込む。
一夜をお世話になった焚き火を消した後、腰に愛用の刀を帯び、背中を覆う大きさの袋を背負った。
「行くぞイル」
「ぉっ、もう行くのか?」
「日が傾く前には村に着いておきたい」
イルは端麗なその顔を綻ばせ、妙に大きく膨れた胸を張って伸びをする。
「――んっ。それでは行くとするかのぉ」
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