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まだ芽吹き始めたばかりの植物が覆う地を、革靴で踏みしめる。その度に足裏に柔らかい感触を感じ、心までも穏やかになるよう。
鼻歌を刻みながら隣を歩くイル。キメ細やかな絹の黒いドレスは光を集め、自然色の森には異様に栄えていた。
「それにしても、平和だのぉ」
「そうだな」
「暇じゃ。わたしは暇だぞ、えん」
その様相とは裏腹な喋り方で、頬を栗鼠のように膨らませ、つまらなそうに言葉を漏らす。
「俺のせいではない」
「そんなのわかっているわっ。相変わらずの無愛想じゃのぉ」
「無愛想なのは幼少からだ」
前方で、虚空を舞う蝶を無邪気に追いかけるガルに目を向けながら、脳内には炎の記憶が垣間見える。
「次の村はなんて言うとこかのぉ」
長い旅路の中で、たくさんの村を越えて来た。この世界には未だに人類の未踏の地が多く存在する。
魔の空気が染み渡る幻想海域、闇の世界へと繋がると言われる暗雷の谷、永劫の炎が顔を覗かせる火炎の山。
そんな中、俺たちが向かうべき地は、遥か海の先の国。古神の歴史が色濃く刻まれた始まりの地。
「次の村の名は、ナルだ」
「ナル? しけた名じゃのぉ。どんなところじゃ?」
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