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天からは時々、鎖が降ってくる。
ここの空はいつでも墨を流しているようだ、とマトは天からぶら下がってくる鎖を見上げてぼんやり思う。
この辺りであちらこちらに生えている樹木の幹は、モリブデンやタングステンやマンガンというものでできているらしい。そう、前に教えてもらった。上質な艶のあるやつは黒曜石じゃないだろうか、とマトは近ごろ考えている。
しゃらしゃらと鳴る木の葉はたいてい、雲母だ。たまにプラチナや、銀も混じっているような気もしている。
きぃん、かぁんと硬い音をたて、足元で揺れる、色の濃淡だけがわかる草花は、ほとんどのものが水晶やアクアマリンの結晶だ。
こう、ここまで光に乏しく、なにもかもが白黒ばかりでできた世界では、それらの判別などどうにもこうにも難しいのだが。
すい、と空から光が差し込んでくる。めったに見られないそれを、マトの周囲に集まっていたモノたちが食い入るように見上げている。彼らの視線の先では黒い空にたくさんの小さな穴が次々に開いていく。細い、細い、綺麗な虹色の鎖が、するすると垂れてくる。
あちらがわは今日、よく晴れているらしい。
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