1.影の国にペンギンさんはいますか

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 垂れる鎖の数は一本や二本ではきかない。数十という数が空から垂らされ、ちらり、とやけに鮮やかな、あちらがわの空の青色が覗いて見える。  角度によって彩りを変える虹色の鎖、隙間から差し込む光が筋状に伸びる輝き。その下に広がるのはわずかな時間だけ色を手に入れた、宝石や鉱石ばかりでできた大地だ。  それは神秘的でとても美しい光景だった。  あの美しい光を、地上の世界を、もっと近くで見たいと思ったのだろう。  まだ無邪気そうな、産まれたばかりらしい、小さな影が鎖に近寄っていく。  途端、静かに垂れていた鎖は素早い生き物のように動き、影を巻き取った。その速さには誰もが本能的な恐怖を呼び起こさせられることだろう。マトの周囲からも息を飲む音がいくつか聞こえてきていた。  黒い影をしっかりと捕らえた鎖は静かに引き上げられていく。そうしてメージャが捕らえられる毎に、光は閉ざされてしまう。  時おり、そこそこの大きさにまで育った影も鎖に近寄っているのがわかる。彼らは自分で鎖をしっかり掴み、経験で得た知恵で力を行使し、慎重に姿を消していった。 「あ、切れる」  無謀な挑戦に失敗した影をあざ笑うような、悪意の声がさざめく。     
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