1.影の国にペンギンさんはいますか

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 ああまで成長したのだから、そこそこの力を蓄えていたのだろう。大きな黒い影を捕らえていた鎖は細かく揺れ、まるで重さに耐えているようだった。それが悲鳴をあげるようにいきなりぐいっと伸びた。鎖はあっけなく、ぷつりと千切れる。と、わらわらとそこに他のメージャたちがたかっていく。  数秒後、虫のように小さな影は散っていき、もう、そこにはきれいさっぱり、何も残っていなかった。  やがて空は淡い光と濃い影が絡み合い、ゆらゆらと揺れるいつもの姿を取り戻していく。  イベントは終わりだと、マトはいつもの大岩に寝そべる。  この大岩でさえ、今はもう、黒い影に見えている。ついさっきやっと知ったことだが、どうやらこれは黄金の塊で、この辺りの地面はダイヤモンドとオパールでできているようだった。そこに、翡翠の雑草と真珠の花が生え、ルビーの実がなっていた。  風が吹き、木の葉や花が揺れ、しゃらり、からり、と軽く高い音があちこちで鳴る。  例えあの木が黄金とエメラルドであろうが、黒曜石と碧玉であろうが、タングステンと雲母であろうが、どうせ普段は白黒でしか認識できない。静かになった影の世界で、マトは昼寝をしようとしていた。 「マト様、こちらで歌いましょうよ」  白黒の世界でもわかることはある。例えばそれは他人の造形だ。     
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