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目を開くと、マトのすぐそばには妖艶な女の姿をしたメージャがいて微笑んでいた。彼女は右半身に猫の毛並みを残しており、整った顔かたちや、理想的にすらりと伸びた手足を持っている。ここまで成長したメージャはほとんど、人間の容姿に近い。
「ねぇ、マト様、こちらに来て下さいませ。酒を用意させましたのよ」
やはり美しい、そして犬の尾を残した女の姿のメージャが別方向から声をかけてくる。
酒を作るためには、きっとかなりの数の魂を使ったことだろう。その材料が人間か、メージャのものか、飲んでみなければマトにはわからない。そういやどちらだろうと味に大差はなかったなと、マトは酒の材料について考えることをやめた。
犬のメージャもかなり力を蓄えた存在だと、やはり姿を見ただけですぐにわかる。
「お前らだけでやってろ」
黄金でできた岩の下には、今日も、ざっと数えて二十人ほどの男女のメージャが勝手に集まっていた。
「マートっ! 今日も陰気な顔してるねっ!」
そこに、明るい女性の声が降ってくる。わずかな時間だけ、マトの肌はピリピリと異常を感じていた。異常が収まった直後、すぐそば、岩の下からは悲鳴が上がる。
見なくてもわかる。そこにいた半数以上のメージャの姿がかき消えたのだろう。
「おい、俺を変な名前にするなよ」
マトは岩の上で寝転がったまま顔をしかめる。それから、目の合った二人のメージャをこの場から追いだすことにする。
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