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穣の恋人のことは後で問い詰めるとして、何とか立ち直った俺はこの後どうしようかと頭を悩ませる。直接告白しようとすると緊張するだろうし、緊張したらちゃんと自分の気持ちを伝えきれるかどうか分からない。
「やっぱりラブレターにするしか…」
「第一どうやって渡すつもりだよ。そうだな…どうしても無理なら、LINEはどうだ?」
「そうか、その手があった!」
「そもそもIDを知っているかが問題だけどな」
その点はぬかりない。文化祭実行委員はLINEグループが作ってあるから、メンバーから探せばきっと見つけられるはずだ。メンバーの一覧を開くと、『栗原朔耶』と書かれたアイコンをタップし、トーク画面を開いた。
「おいちょっと待て」
「え、何?」
「ちゃんと文書を考えてから打たなくて大丈夫か?」
「…確かに!」
途中で誤送信なんかしたら大変な事になるもんな。隣からスマホを覗き込んでいた穣の溜息には気付かないふりをして、ルーズリーフを取り出し下書きを書き始める。
「『急にLINEしてごめん。B組の向坂です。前から気になってたんだけど、付き合ってくれませんか』。これでどうだ?」
「短い、伝わりにくい。第一、全部LINEで済ます気かよ」
「え、駄目?」
「せめて自分の口でもちゃんと伝えて直接返事貰って来い、それからこうして…他に伝えたいことは?」
俺がぽつぽつ紡ぐ言葉を少しすつ文に書き加えていく。LINEは今から送って、昼休みに体育館前で直接返事を聞きたい、という内容にした。
そしていよいよ送信する時が来た。サヤちゃんのトーク画面をもう一度開き、誤字脱字が無いかどうか10回以上確かめて送信ボタンに指を置く。
「うぅ…緊張する…」
「ヘタレ陽祐…さっさと送れ…」
「どうかちゃんと届きますように…よろしくお願いします…!」
送信ボタンをタップすると、ピコン、という音と共に俺の送ったメッセージが画面上に表示された。昼休みまでに見てくれることを祈りながら、スマホの画面を消してポケットにしまう。
「はぁ…緊張した…ありがとう穣先生…」
「後はちゃんと返事を聞いて来いよ。あと昼休みイチゴミルク1本な」
「喜んで…!」
まぁ素直な気持ちは伝わってるんじゃないか、と笑う穣が神様に見える。今日は授業の間中落ち着かずにそわそわしていて、勉強なんて頭に入って来ない。我慢出来ずに4限の終わりにそっとスマホを開くと、返事は無かったものの、しっかりと既読がついていた。
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