間違いは恋の始まり。

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昼休み。いよいよ告白の返事を貰う時が来た。 「向坂陽祐くん?」 予想より少し低めの声に顔を上げると、栗色の髪の優しそうな少年が立っていた。確か名前は栗原サクヤ、サヤちゃんと同じ苗字だったし、何より2人が違うクラスなのに、やけに親しげに話していたからよく覚えている。栗原サクヤは穏やかな笑顔を浮かべたまま、ポケットからスマホを取り出し俺に見せた。 「このLINE、君だよね?」 そのトーク画面は、間違いなく俺がサヤちゃんに送ったものだ。 「あぁ、そうだよ」 何で此奴がサヤちゃんに送ったLINEを持っているんだろう。立ち上がり、不審に思って眉を寄せるが、相手の方は安堵したように息を吐き微笑んだ。 「良かった。サヤちゃんと俺は従妹でね、父親同士が兄弟だから、苗字も同じだし名前をよく似せてつけられたから漢字だと間違われやすいんだ」 そう言いながら、スマホのメモ帳画面を開いて何かを打ち始めた。書き終えた画面を見ると、『栗原咲耶→さや』、『栗原朔耶→さくや』と2つの名前が並んでいる。 ちょっと待て。ということは、だ。俺は栗原“咲耶”ちゃんじゃなく、栗原“朔耶”に告白のLINEを送っちゃったってことか!?だったら間違いだって訂正して謝って、本物の咲耶ちゃんに気持ちを伝えないと。何より此奴が断ってくるだろうけど、男相手に男が告白したなんて周りに知られたらどんな噂をたてられるか。 そう思っていたら、手を掴まれた、いや、両手でそっと包まれたという方が正しいか。とにかく俺は、栗原朔耶に手を取られていた。 「…ありがとう」 「…え?」 「君の気持ちが、その…すごく嬉しかったんだ」 顔を上げると、栗原朔耶は今にも泣きそうな顔で微笑んでいた。 「俺も実行委員になってからずっと、君のことが気になってた。でも同性からの告白なんてきっと気持ち悪がられるだろうから、何も伝えずに諦めようと思ってたんだ。そしたら今日、君からLINEが来た。最初は夢なんじゃないかって、からかわれたんじゃないかと思った。でも君はちゃんと、真剣な顔でここで待ってくれてた」 俺は栗原サヤちゃんに告白した筈だった。告白は間違いだったと伝える筈だった。 「これから、よろしくお願いします」 「…よろしく」 でもこんなに嬉しそうに、泣きながらそう言って笑う栗原朔耶を見ていたら、「告白は間違いでした」なんて、言えなかった。     
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