間違いは恋の始まり。

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「で、その栗原朔耶と、付き合うことになったわけか」 「そう、です」 話し終わった後、栗原朔耶は本格的に泣き出してしまって、暫く一緒に座って宥めていた。教室に戻って来るとチャイムが鳴ったため、昼休みの間は穣に報告ができず、放課後に質問の嵐にさらされていた。LINEの文章を作るところから何から何まで世話になっていたから、結局は告白の間違いからその結果まで、全てを話すことになった。 穣は俺の話に口を挟むことなく全て聞いてしまってから、噛み砕くようにじっと何かを考えた後に大きな溜息を吐いた。 「陽祐お前、サヤちゃんに告白するんじゃなかったのか。それでいいのか」 「それ、は、そうなんだけど…彼奴のあんな顔見ちゃったら、間違いでしたなんて言えなくて」 「お前の気持ちをどうこう言っている訳じゃない、“彼の気持ちを考えると”それでいいのかって話だ」 真剣な穣の視線に射抜かれる、心臓がやけに大きく音を立てている。分かってる、俺は朔耶に対して、とても酷いことをしているんだって。もし間違いだったことが朔耶に知れたら、いや知られなくても、彼に酷く失礼で傷つけることをしているんだって。それでも。 「それでも、俺は彼奴の…朔耶の気持ちに向き合いたいと思ったから。その気持ちは本物だ」 「ふうん」 穣は少し目を細めて俺をじっと見つめる。その目を逸らさず睨むように見返すと、ふっと息を吐き微笑んだ。 「まぁ、お前がそう思ってるなら良いんじゃないか。付き合ってみて初めて分かることもあるかもしれないしな。数ヶ月後、案外お前の方が栗原にゾッコンだったりして」 「穣は、その…俺が男と付き合うって、変に思わねぇの」 「はぁ?何を今更。そもそも相手が同性でなければならない理由は?」 そうだ、此奴はそういうやつだった。こんな自由人の俺の隣にいつも居てくれる、何もかもを分かって受け入れてくれる大切な友人。照れくさくて視線を逸らせば、やけに挙動不審に廊下をウロウロしている朔耶の姿が目に入る。 「陽祐に用があるんじゃないのか。帰るなら俺は部活に行くから先に2人で帰れよ、確か同じ電車に乗ってた筈だ」 「あぁ、ありがとう」 またゆっくり進展は聞かせてもらうよ、そんな穣の声を背に受けながら教室を出た。
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