絡まる鍵

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夏、真っ只中。 俺は家で、一人の男が来るのを待っていた。 というのも、 話は1週間前にさかのぼる。 仕事が終わってひとり、家でビールを飲んでいると 愛する妹からラブコールが来た。 「おう、芽衣、どうした?」 『お兄ちゃん・・・あのね、お願いがあるんだけど』 「お願い?なんだなんだ、なんでも言え!兄ちゃんが聞いてやるから」 『うん、実は』 そこで俺は信じたくない事実を突きつけられた。 妹に彼氏がいること。 そしてその彼氏が教師を目指しているということ。 「そんな秀才が、お前の彼氏なのか・・・」 『うん、それでね。ここからがお願いなんだけど・・・聞いてる?』 「聞いてる、聞いてるけど・・・ちょっと現実を受け入れる時間をくれるか」 『よくわかんないや。で、お願いっていうのが』 妹からの切実なお願い、それは、 3週間、その彼氏を俺の家に泊めるというものだった。 「なんで!?」 『だって、奏くんの母校ってお兄ちゃんの家の近くにあるんだもん。  実習は母校でしなさいっていうルールがあるんだって』 「まあ確かに、東京からここまで通えっていうのは酷だな」 『でしょ?だからお願い!』 というわけで、そのお願いを聞いてしまったから、 妹の彼氏と一緒に住むことになってしまった。 幸い使っていない部屋があるし、 嫌になっても3週間我慢すればいい話だ。 相手は大学生、俺はサラリーマン。 会うといっても夜くらいだしな。 なにより、 可愛い妹の頼みを聞けないわけがない! 聞かなければ、芽衣に嫌われてしまう。 それだけは絶対に嫌だ! 確か芽衣と同い年って言っていたな、ということは21歳。 5歳年下か。 まだギリギリ話題が通じ合える年齢差か。 そのとき、インターフォンの音がなる。 来た。 急いで玄関へ行って、ドアを開ける。 そこには・・・ 「あ・・・」 俺より少し低い身長。 黒くてさらさらした髪。 ほどよく痩せた身体に、清潔感溢れるファッション。 そしてメガネの奥にある、 鋭い瞳。 イケメンだ。 瞬時にそう思った。 「お・・・小野寺奏くん?」 訊ねると、その鋭い瞳が俺を捉えた。
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