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「嫁に来てくれろ」
男の求婚に、町娘は顔をしかめて、
「いやぁよ、誰があんたみたいな醜男の」
「嫁に来てくれろ、嫁に来てくれろ」
「しつこいわね。死んで生まれ変わってきたら、考えなくもないわ」
娘がそう言うと、翌日、男は首を吊って死んだ。
少しかわいそうかな、と娘は思ったものの、せいせいしたという思いの方が強かった。
数日後、一羽の鴉が飛んで来て、娘に向かってこう鳴いた。
「嫁に来てくれろ」
「な、なんなの」
「嫁に来てくれろ、嫁に来てくれろ」
鴉は一心に、そう鳴き続ける。
娘は気味悪くなって、近所の猟師に頼み、鴉を撃ち殺してもらった。
そのさらに数日後、今度はいぼ蛙が娘の前にやってきて、鳴く。
「嫁に来てくれろ」
あまりの気持ち悪さに、娘は蛙に向かって大きな石を投げつけた。石につぶされて、中身が半分飛び出ながらも、やはり蛙は、
「嫁に来てくれろ、嫁に……」
そう鳴きながら、息絶えた。
さらに、それから……。
今、娘の耳元では、げじげじが鳴いている。
「嫁に来てくれろ」
殺してしまいたいが、できずにいる。もし殺せば、次に何が出てくるか分かったものではない。
ああ、と娘は嘆息する。
最初に男の求婚を受けておけば良かった。少なくとも、彼は人間ではあったのだから。
「嫁に来てくれろ、嫁に来てくれろ、嫁に……」
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