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「迷ってるかな、また」
5分前に遅れると連絡があったきり、カオリは
15分経っても一向に姿を見せなかった。
高校に入ってはじめての花火大会の夜、久々に
集まった中学からの仲良し6人組は、はじめて
地元以外の有名な都会の花火大会に来たのだった。
駅ナカは混んでいるからと、駅から少し離れた
オブジェの前に待ち合わせをしたことが裏目に
出たようだ。
「誰か探してきてよ。あの子絶対また迷子に
なってるよ」
出ない電話にため息をつき、浴衣の裾を不器用に
引っ張りながら、リーダー格のユキが言った。
「俺が行ってくるよ」
言うやいなや、3人の男子の中でいちばん体の
小さい祐介が人混みに消えた。
高校でも野球をやっているせいか、動きが俊敏で
フットワークが軽い。
ひとまわり年の離れた姉に、いつもこき使われて
いるせいかもしれない。
カオリは4人兄妹のいちばん上で、普段は
しっかり者なのに絶望的な方向感覚を持っている。
白パンのようなふっくらした頬に、柔らかな
黒のロングヘア。
穏やかでいつもニコニコしている女の子だ。
道行く人の汗をすべて吸い込んだかのような
湿った熱気が押し寄せて、祐介は思わず息を
止めて小走りになる。
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