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『充(みつる)ー! まだこっちにいるんだろー!? 満(みちる)ちゃんも、オレらと一緒に遊びに行こーぜー!!』
人様の家の玄関ドアをドカドカと殴りながら騒ぎ立てるガキ大将に辟易しつつ、俺は自分の不運さを呪っていた。
昨日は何もかもタイミングが悪かった。
これまで上手く躱すことができていた土門と、夏祭りが終わった直後に出くわしてしまったこと。
周囲に人気が少なく、雑多に紛れて逃げる手が使えなかったこと。
そして、俺の心情なんて知るはずもない父と母が同じ場所に居合わせていたこと。
祖父達と別行動していた姉貴は土門のマークを掻い潜ることができたものの、まんまと見つかってしまった俺に対して土門は、「明日の十時から一緒に遊ぶよな?」と強引に約束を取り付けようとしてきた。
対して俺は地元に帰らなければならないことを口実に断ろうとしたのだが、後ろにいた両親が「帰るのは夕方からの予定だから」と二人揃って発言してしまったことで、こうして午前中から土門に絡まれざるを得なくなったのだ。
……動物園に行った帰り道で猫の轢殺死体を見たような気分だ。楽しい思い出だけを持って地元に帰りたかったのに。
「うーわ、ホントに来たよあの偉スモサウルス。……いや、エ土門トサウルスの方がいっか、顔似てるし。ぷぷぷ」
騒ぎを聞きつけて、二階にいた姉貴も分かりにくい悪態を呟きながら降りてくる。
「ほら充。あんた指名されてんだから、どっか遠くに捨ててきて」
「呼ばれてるのは姉(ねぇ)もだろ。……姉は行かないんだな」
「当たり前でしよー。あいつ威張ってばっかりだし、身体触ってくるし息臭いし。それに暇でお子ちゃまな充と違って、私には《皆が買い物に出てる間この家を守る》っていう“すーこー”な役割があるのよーん。あ、それにホラこれ、充も見て見て。じゃんっ」
「なん……っ?!」
俺のすぐ目の前に突き付けられたのは、衣服をビリビリに切り裂かれたロボットっぽい女の子が描かれたブルーレイのケースだった。
その女の子の下にでかでかと印字されていたタイトルは《ぱい乙☆アップデート↑↑》。俺はよく知らないけれど、深夜アニメとかいうのに分類される大人向けのアニメなのだろう。
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