【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 三】

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「お次はお子様からご老人までご家族の皆様に大人気、岩をも砕く怪力のオウコ、妖艶な水の舞姫カラ、小さな空飛ぶジャグラー、リンクです!」  二メートルは軽く超える、濃緑色の胴着を着た虎の大男が、ぬっと猫型自動車の中から出てきた。  筋骨隆々としたその太い左腕は真っ直ぐ水平に伸ばされ、その上には裾や袖の長い薄手の中華風の踊り子衣装の、美しいネコの女性を乗せている。  艶のある褐色の毛並をした彼女は優雅に扇をひらつかせ、流し目で微笑みながら舞い踊っている。  流水のような水色の羽衣を身にまとい、毛先の長い両耳に紅い蓮の華飾りをつけたその姿は、水の中を華麗に泳ぐ魚のようにも見える。  一方、虎の大男の右腕は天を突くように高く伸ばされ、その人差し指の上では小さなクリーム色の子ネコが、くるくると片足で回りながらボールジャグリングをしたり、宙返りをしている。  子ネコは道化師に近い黄色と黄緑色の切り替えのあるデザインの服を着ていて、お揃いの色合いの帽子をかぶった元気いっぱいのその表情からすると、どうやら男の子のようだ。  虎の大男は微笑みながらその二人を階段下まで軽々と運んでいるが、姿を現してから終始、自分の力を誇示することはけっしてなかった。  豪快かつ、とても優しい心の持ち主らしい。  腕の上の二人の技がきまるたびに、観客からわあっと歓声があがる。  子供たちの声援や、女性の憧れの声、男性からの野太い掛け声など、叫ばれる言葉も様々だ。家族層に人気というのも頷ける。  スズも思わず指を指しながら口を開ける。 「猫、だけじゃないんですね、虎ですよね、あれ。いやあの人」  笑いながらギンコは答える。 「正確にはカラさんも猫じゃなくてカラカルなんだけどね。  じゃあきっと、次もまた驚くと思うよ」
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