【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 四】

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 スズは一遍に彼ら全員のファンになってしまった。  何度も頷きながら、彼らに向かって拍手を送り続けていたが、ふと、やけに静かな事に気づいて周りを見渡すと、女性はもとより男性ネコたちも見惚れるようにボーっとしていた。  どうやら一番人気は、やはり団長のブラック・ミストらしい。 「ブラッドの魔術は相変わらずキレがあるなぁ……。解っててもだまされちゃう。  ん? ああ、“ブラッド”っていうのはね、彼の愛称。  っていうか本名か。ブラック・ミストの方が芸名なんだ」   ギンコがこう答えているうちに、また人垣、いやネコ垣の端のほうから歓声があがり始めた。  どうやらシルフのメンバーが時計回りに歩きながら、観客に挨拶をしているようだ。  観客全体のちょうど中央あたりにいるスズたちは、背伸びをしたり、首を伸ばしたりしてメンバーの訪れを待った。  やがて、一番最初に姿を現した、“フーカ”と呼ばれた少女が目に映った。 「風花(フーカ)! こっち、こっち!!」  ギンコが仮面の口元に右手をあて、左手を高くブンブン振りながら叫んだ。  その声は歓声にかき消されそうだったが、彼女は一瞬耳で拾った声に反応したようだった。  笑顔で観客の握手やハイタッチなどに答えながらも、目は素早くこちらのほうを見回して何かを捕らえようとしている。足は次第に早足になってきた。  そしてとうとう、ギンコの仮面と目が合うと、大きな目をさらに見開いて、満面の笑顔を浮かべた。 「お兄ちゃん!! うそ、久しぶり!!」  左手で間にいる観客たちとタッチしながらも、フーカはギンコのほうに駆け寄ってきた。そして少しだけ前に出たギンコの胸元に飛び込んだ。  ギンコは走ってきたフーカを受け止め、持ち上げるように抱きしめると、くるりと小さく回転して彼女を降ろした。  カーネーションの花のようなスカートが、ふわりと風を受けて広がった。 「久しぶり、フーカ。またちょっと重くなったんじゃない?」  ギンコがふざけて、しかし嬉しそうにいうと、「重くなったんじゃないです、成長してるんです」と言いながらフーカがギンコのわき腹に小さくパンチをした。  しかしこちらも顔は嬉しそうに笑っている。
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