【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 四】

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(兄妹だったんだ……じゃあ彼女も人間、マレビトなんだ)  似てるかどうかはよく解らないけど、確かに美男美女だし。とスズが心の中で納得していると、「彼がね、本物の妖精だと思ったって」とスズを引っ張りながら、ギンコが唐突にさっきの話を持ち出した。  スズが仮面の中で真っ赤になって黙っていると、フーカがちょっと驚いたように、そして少し照れたように二人の顔を見比べながら答えた。 「誰? 地元の新人さんかな? ありがとう! えーと……」  世界中のありとあらゆる美しい植物の緑を集めたような、深く吸い込まれるような色の瞳でスズの顔を覗き込む。  唇は柔らかなピンクの薔薇の花びらのようだ。 「あ、名前はね、“スズ”って言うの。あっちでみんなに紹介するよ。  ボクはブラッドや老師と話があるからさ、それにもうシエスタの時間だし。  限界、限界。あとでテントの中でも案内してあげて」  ギンコが(たぶん)あくびをしながら、安心したように言うと、フーカは左の片眉をあげて呆れるように笑った。 「ハイハイ。お兄ちゃんは相変わらずお昼寝しないとダメなんだね。  じゃあスズ、あとで。よろしくね!」  フーカが手を振りながら笑顔で駆け抜けていった。  地球でもアイドル級かそれ以上に可愛い女の子に出会える事自体がマレなのに、その上そんな子と知り合いになれるなんて。  それだけでもこの世界に飛んできて良かった。  そんな思いで去ってゆく彼女の後ろ姿を見つめながら、スズは小さく手を振り続けた。
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