【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 六】

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「うん、そう、マレビトなんだ。スズ、仮面を取ってくれるかな?」  何がなんだか解らなかったが、仮面を取った。  フーカがさらに険しい表情をして、二、三歩後ずさる。  正直言って、ほんの少し、ほんの少しだけメルーやレオナのような反応を期待していたスズの心は地底二千九百ニャンクロトス、地球で言えばマントルが終わる地点ほどまで沈んだ。 「セン様の占いに出てたでしょ、彼が今回のマレビトよ」  カラがフーカの肩を抱いて言う。 「……よろしく」  思い直したように、そして何かを諦めるように目をそらし、ほとんど無表情にフーカが言う。 「……ええと、オレ……日本から来て……本名は鈴木進一郎で、スズって呼ばれることになりました。よろしくお願いします」  なぜ突然嫌われたのかは解らなかったが、とにかく頭を下げてみんなに向かって挨拶した。 「ごめんね、この子は基本マレビトが苦手なのよ。  私はカラ、シルフでの私の演目は舞やジャグリング、それからフーカと一緒にエッジのナイフ投げの的にもなってるわ。あと、占いなんかも得意なの。何か悩みがあるなら相談に乗るわよ?」  入れ替わるようにしてフーカが下がり、カラが笑顔で挨拶した。 「よろしくお願いします」  スズが少し笑って握手をする。  すると、てててて、と走ってくる小さな足音がした。 「新しいマレビトにゃ! ボクはリンクにゃ!  ジャグリングと跳ねるやつ、トランポリンとか得意にゃ。たまに空中ブランコも手伝うにゃ。  ほっぺプニプニしてもいいかニャ!?」  一気にまくし立てながらスズの顔の高さまでジャンプしてきた。  思わず抱きとめると両手でスズの頬を挟み、初めて手にするオモチャで遊ぶかのように、肉球でプニプニしはじめた。  そして、ぱあっと顔を輝かせて満足気にゴロゴロいうと、さっと飛び降りてテーブルのほうに駆け戻っていった。 「あれは動物好きのマレビトが、犬や猫をモフモフしたいっていう気持ちと同じだから」  今のは喜んでいいのかどうかと悩んでいるスズの肩をギンコがポンと叩いて言った。
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