【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 六】

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「俺はオウコ、まあ何だ、怪力が俺の自慢だ。  山の国の生まれなんでな……何かあったら言ってくれ」  スズの倍はある、虎の大きな手での握手に内心ではビクビクしていたが、素朴ながらも人間味があり、誰よりも優しそうなその表情に気持ちが和らいだ。 「それでまた、どうしてすぐに坎国……水の国に向わず、ここにいるんだい?」  狐のネコタミ、エッジが入れ替わりにスズと握手をしながらギンコに尋ねた。  ギンコの師匠だという彼は、一見クールだが、さりげなく人をフォローするのが上手いという印象だ。 「そうそう、それなんだけどね師匠!   ボクらを一緒に連れてってもらおうと思って」  ギンコが少しも悪びれずにそう言った。 「はぁ?!」  大小様々だが、異口同音に突拍子もない声が発せられた。  スズももちろん驚いたが、ギンコと二人旅よりは遥かに得るものがありそうなので、気持ちの上では瞬時に受け入れた。 「だってやっと帰ってきたばっかりなんだよ!  それに次の公演は雷の国って決まってるじゃない!」  フーカが憤慨して声をあげる。 「いや我々は良いとしても、スズ君側に問題があるのではないか?  確か期限があるだろう、マレビトが向こうの世界に帰るには。  なるべく早く、登録に向かうべきではないのか?」  ライオンのネコタミ、マルコがやんわりと口にする。  今度はスズが「はぁ?!」と思ったが、なんだかもう、ギンコのこういうところには慣れてしまったようだ。  少し俯いて「はぁ」と溜息をついた。 「案ずるな少年よ。とはいえ三年程の猶予はある」  何か察したのか、マルコはスズの頭をくしゃくしゃと撫でて言った。  見た目は思い切りライオンなので、これにも一瞬ビクッとしたが、顔を上げて目が合ったとたんに、その心配は氷解した。  一見険しい表情に見えるその瞳の奥には、か弱い者を守ろうという、紳士的な強さと優しさが宿っているように感じられたからだ。  ほっと安心したところで、「こいつ、マルコに喰われやしないか心配なんじゃねーの?」と、ライオンの肩にいるカラスのような鳥が笑った。  その鳥の頭には三本の筋となる赤い冠羽があり、よく見てみると、その足もまた、三本あった。
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