【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 一】

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「私たちには、食事としての柑橘類の良さは、これっぽっちも解らないんですけど」  レオナが苦笑しながら「だからレモンはこの人がいる時だけの特別なんです」とスズに説明した。  程よく温かいミルクティーは美味しかった。  猫舌用に少し冷まして飲むのがこちら流なのかもしれない。ギンコも黙ってゆっくりと紅茶を飲んでいる。 「それで、ギン様の本名は、“Angelo・Virga”《アンジェロ・ヴィルガ》ですよスズ様」  ギンコが紅茶を吹き出した。  レオナがお盆でそれがスズとテーブルにかかるのを防いだ。 「なんで勝手に教えるんだよ!!」  咳き込みながら立ち上がってギンコが抗議した。 「別に良いじゃありませんか、知られてまずい話でもないですし。  この世界に数少ないマレビト同士、正直にいきましょう」 「なんだ、“カルボナーラ・カルパッチョス”くらいの面白ネームだったら良かったのに」  スズは小さく呟いた。  そして“アンジェロ”、『天使』だったらそのまんまだな、と、納得しつつもどこか悔しくも思った。 「ホラ、スズも『そのまんまだな』って顔してるじゃないか!  嫌なんだよ小さい頃から女の子みたいって言われてたし!  それに母の名前だって……」  そこまで言うと、むーっと目をつぶって、椅子にどっかりと座り込んだ。  そして「本当にレオナのいれてくれるお茶は最高だよね」と、何事もなかったかのようにカップの中に残った紅茶を飲み始めた。
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