【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 二十】

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 そうしてしばらくは湯船の中でゆっくりしていたスズだったが、新たな入浴客が増えてくるにつれ、全身に毛の生えていないスズを興味深く見つめる視線を感じるようになり、どうにも落ち着いてお湯を楽しめる状態ではなくなったので、早々に上がることにした。  とりあえずいつものバッグに着替えを詰め込んできたスズだったが、寝巻きに着替えた後ふと、今日着ていた変な汗びっしょりのワイシャツなどはどこで洗ったら良いのだろう、と気が付いた。  そして、自宅で洗濯機に放り込む前にいつもするようにポケットから物を取り出して、ようやく大事な事を思い出した。  胸ポケットに入れていた、携帯電話と生徒手帳。  生徒手帳には、フーカの物だと思われる写真が挟まれたままだ。 「ぎぎぎ、ギンコさん!! 忘れてた、オレこれ、拾ったんです!  たぶんフーカの! 写真!!」  浴槽に見えるように脱衣所から生徒手帳を開いて振ると、ギンコとブラッドは目を凝らしてそれを見つめ、一瞬驚いたようだが、二人ともすぐに何かに納得した顔になった。  そしてギンコは「じゃあ、フーカに渡してきてよ、ボクまだ入ってたいし」と笑顔で湯船から手を振った。 「だってオレ、嫌われてるし!  こんな長い時間黙って持ってたのバレたら殺される……」 「君が拾ったということは、君が渡すべきなんだと思うよ」  ブラッドが微笑みながら、だが有無を言わさぬ口調で言った。  この二人を哀れみで説得するのは無理そうだ。  絶望的な気分でふらふらと踵を返すと、後ろからギンコの声がかかった。 「風雷石は、人を探すときにも使えるからね!」  これで「今どこにいるか解らない」という逃げの選択肢も消えた。  やや重たい気分で棚に置いていた風雷石を首にかけると、さっそく石は求めるものを示すように黄色く光りだした。  だがその光は、スズのバッグの中、彼の電子辞書に向って光を伸ばしていた。
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