【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 二】

3/4
前へ
/100ページ
次へ
「これは常設テントなんだ。公演がある時はそのまま使うし、無い時は風の民が練習用に自由に使っていいんだよ」  ギンコが説明する。ニコニコといつにも増して嬉しそうだ。ワクワクしているようにも見える。 (ああそうか、これはお祭りの前の雰囲気なんだ)  そう思いながらスズは周りを見回す。  良く見れば白いテントの周りには、例の国別色のカラフルな三角旗が飾られており、何かの準備のために慌ただしく動いている、派手な衣装のネコたちもたくさんいた。公演のスタッフという役どころだろうか。  テントに近づくにつれ、先ほど聴こえてきた音楽も、よりはっきりと聴き取れるようになった。  どこか物悲しいのだが、愉快にも聴こえる、妙に曲の続きが気になる奇妙な曲だ。  不思議そうな顔をしているスズに気がつき、ギンコが言う。 「“ジンタ”って言うんだよ。知らないかな?  サーカスの宣伝音楽のことなんだけど。  この曲は、風の国のサーカス団、シルフのもので、『月夜の道化師』っていうの」  言いながら、背伸びして遠くを見つめる。  天幕のさらに向こうを気にしているようだ。  気のせいか、音楽と共にゴロゴロという音が聴こえ、それが地響きのように感じるようになってきた。  前の方にいるネコたちの間から歓声があがる。  どうやら地響きは気のせいではないようだ。 「来た! ハチワレ・ブラック号だ!!」  ギンコがスズの手を引いてネコたちの間をすり抜けてゆく。  あっという間に最前列に出ると、歓声の原因であるそれがテントの裏側から目の前に走りこんでくるところだった。  とてつもなく巨大な猫型自動車。  それは一言で言えばそんなものだった。  シルクハットをかぶってタキシードを着た 黒白のハチワレ模様の大きな猫が、そのまま考えうる限り最大級の大型トラックになったようなものが、奇妙な音楽を流しながら地響きと共にやってきたのだ。 「ん? 何ビックリしてるの?   地球にもカーニバルでこういうのあるじゃない。  日本でも『ねぶた』とか『ねぷた』とかいう、そういうお祭りの山車とか……」  そう言われてみればそうなのだが、これまで素朴で自然で温かなイメージで観ていたこの世界が、また一つ予想外の方向に複雑なものになった気がした。  正直、どこまでついて行けるか不安になってきた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加