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あの女性が、なぜ心を病んでいたか。
聞いた話では、赤子を流してしまい、それを家族に責められて心を病んでしまった、と。
なにぶん、わたしも幼かったのでよくは知りませんが、あの女性の笑声だけは耳に残っています。
けらけら、けらけら、と。
まるで化生のもののような笑い声でした。
ええ、昔のことです。旧家ということではばかりもあったのでしょう。その女性を、家族は地下の座敷牢に閉じ込めました。
そこで。
一日中、彼女は笑っておりました。
けらけら、けらけら。
自室にいても、その笑い声がかすかに聞こえてきたことを記憶しております。
彼女が座敷牢に閉じ込められて、二年ほど経ったときのことです。真夜中、わたしは彼女の笑い声で目を覚ましました。地下に閉じ込められているはずの彼女の笑い声が、いやにはっきりと聞こえてきたのです。わたしは怖くなって、炊事場に行き、そこの甕の中に隠れました。わずかに顔を出し、様子をうかがっていると、そこに血まみれのあの女性が現れたのです。包丁を手に、髪を振り乱して。わたしは悲鳴を上げかけましたが、なんとかこらえました。彼女は、けらけらと笑いながら、わたしの隠れている甕のすぐ横を通り過ぎていきました。わたしは、朝まで甕の中に震えながら隠れておりました。
翌朝、甕から這い出したわたしは、凄まじい光景に息を飲みました。
家族が。
全員、殺されていたのです。
わたしの悲鳴を聞きつけた近所の人の通報で、警察がやって来ました。警察は家の中を隅々まで捜索したようです。
奇妙なことが判明しました。
あの女性の死体が、座敷牢から見つかったのです。それも、ほぼ白骨化しており、昨日今日、死んだものではないということでした。
これが、わたしの体験した全てです。
いままで、記憶の底に閉じ込めておりましたが、最近になって夢にあの女性が出てくるようになりました。正確には、あの笑い声が聞こえてくるのです。
けらけら、けらけら、と。
それが、少しずつ近づいてくるのです。
ねぇ、先生、わたしはどうしたらいいのでしょうか。
どうかお助けください。
ねぇ。
ねぇ。
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