【1】 桔梗

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【1】 桔梗

 冬の朝。灰色に凍った空を、白い吐息がじわりと溶かす。  郵便受けを覗くと、大きな白い封筒が入っていた。中身は、13枚のプリントと、クラスメートからの寄せ書き。 『元気ですか?早く学校に来てね』 『佐賀(さが)くんに会いたいです』 『昨日テストがあったけど、全然できなかったよ(涙) 佐賀君は頭がよくてうらやましいです』  ペンで色鮮やかに書かれたもの。スペースだけは埋めようと、大きな文字で書かれたもの。俺はそれらにざっと目を通すと、ゴミ箱に捨てた。  元気です。元気です。有り難う。お心遣いを、有り難う。  あまり顔を合わせないクラスメートからの、自分に宛てられたメッセージ。嬉しくないはずはない。だが、それらを読むために、時間を割く気にはならなかった。  こういう時、ろくに読まず捨てるというこの行為は、冷たい心の持ち主として判断されるようなことなのだろうか。   時々、「普通」の人間の心というものがわからなくなる。  クローゼットからシャツを取り出し、腕を通す。新品と大差無い制服に着替え、外へ出た。
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