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川田部長は大変興味をもち、会社には研究室がないため「研究を丸投げ」している東都大学薬学部薬理学教室の禿田教授に依頼して急遽、共同研究をすることになった。
結果は我々の予想をはるかに超えていた。血液凝固因子VIIIやXI因子を添加すると毛根細胞や周囲の組織細胞は1万倍から細胞によっては億にちかい桁で増殖、分化していたのだ。
数日してヌードマウスにも毛がふさふさしていたことが判明した。
川田部長は太った腹を上下にゆらしながら、「わーい、わーい、やった 天皇陛下万歳」と子供のように喜んだ。
今度はヒトレベルの臨床試験の話になるが、副作用を恐れて、みなが尻込みしてしまう。
みなが思案しかねていると、「ここはスグル君にわが社のためにヒトバシラになってもらわなければならない」と川田部長は厳かにいった。
もちろん本人には黙って作戦「ハゲハゲ・プロジェクト」は粛々と実行された。
スグルが帰宅すると妻と娘が呑気にテレビを見て笑っていた。
加奈子が「パパはシャワーを浴びるのは最後だよ。だって排水溝に抜け毛がいっぱいあるから」とのっぴきならぬことを言ってきた。
畜生、妻と結婚するころにはロン毛でケムタクとも呼ばれていた俺様に対して何というくちの利き方だと心の中で思った。
シャワーを浴びながら排水溝を見ると毛だらけだ。
「これ以上逝かないでくれ俺の子どもたちよ」と泣きたい気分だった。
就寝前には川田部長に貰ったビタミン剤を三錠のんだ。
朝おきてみるとやけに顔がこそばゆい、ちょうど部屋に入ってきた娘の加奈子が絶叫して「バケモノ」と一目散に出ていった。
何だと思い、手鏡で自分の顔をみると顔中が毛だらけの男がそこにいた。
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