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スグルは河野さんが入れくれたコーヒーが手元に届くと、においをクンクン嗅ぎながら「好食 ホセー:広東語 美味しい」と宣わった。
そして、コーヒーを片手に
半分も理解できていないファイナンシャルタイムズを読みながら「EU問題は大変だ」と人に聞こえるようにわざと呟いた。
スグルはもう、妄想の中で、出来るオトコとしての自画像、ただし頭髪はふさふさしている自分に酔いしれていていた。
この夢の蹴散らす出来事がおきた例のオンナどもの騒ぐような声だ。
「それでさー、血が止まらない病患者にハゲの人が全くいないのよ」と言っていた。
「ハゲ」聞き捨てならない言葉だぞとスグルが聞き耳を立てていると、さっきの気の強そうな女性が仁王立ちになって両手を腰にやり、スグルの前に立っていた。
「あんた、私たちの会話に聞き耳立てていたでしょう」と詰問してきた。
自分が弱い立場になると幼児退行する癖があるスグルは、突然「ぼくちん、何も知らないでちゅよ、ばぶ」といった。
「はあ?あんた、おかしいんじゃない、いいトシして」と言って、「ところであんた何をやっているの」と尋ねてきた。
スグルが自分の名刺をおずおずとさしだすと「はあ?何これ、あんた、ハゲの仕事をしているの」と言った。
スグルのバーコード頭と名刺、「カメハメハ発毛研究所」営業部係長とを見比べて蔑んだ目をしてもう一度、スグルの頭を見た。
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