父の死

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 敵国ニヴルとの休戦条約締結。その朗報に湧く人々をよそに、私は一人で泣いていた。  従軍牧師だった父が、戦地で亡くなったという知らせが届いたのだ。  母を早くに亡くした私にとって、たった一人の家族だった。誰よりも優しくて誰よりも臆病な、私の父。町の牧師であり、この世で一番争い事に向かないような人。なのに、戦乱のただ中へ身を置くなど、悪い冗談としか思えなかった。  けれど父の意志は固く、私が独り立ちしたのを期に従軍を志願した。  父から届いた手紙を読み返す。夕焼けの海岸が綺麗だっただの、降り積もった雪を見て感動しただの、まるで観光日記のようだった。従軍牧師という立場上、辛いことや悲しいこともあっただろうに……。  もう、この文章でしか父の面影を感じることが出来ないと気づき、再び涙が溢れた。  人は死ねばその姿は消え去る。当然の事だった。肖像画という形で死後も名前と身体を残す事が出来るのは、限られた偉人だけだ。  一度だけでいい、父の生きた姿をまた見たかった。  けれど、そんな願いは魔法でもなければ叶うはずも無いのだ。  一瞬を切り取って残すことなど、人間には出来ないのだから。
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