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前に来たのは一月前の七月の半ばだった。夏は庭の草が伸びやすいのでこうしてまめに来るのだけれど、今日はあいにくの雨で、庭の手入れは雨がやむまで出来そうになかった。父は二階の掃除を、僕は一階の掃除を分担して行うことになった。
いつもどこから掃除をすると決めているわけではない。けれど、今日はなぜか玄関から一番遠い西側の部屋。祖父の書斎へとすぐに足が向いていた。何かに引き寄せられるように、そこに行くのが当然のように、僕は雑巾とバケツ、水を入れたペットボトルを持って祖父の書斎の扉を開いた。
祖父の書斎は扉から奥に向かって細長く伸びた八畳ほどの部屋だ。東側と南側の壁伝いに本棚が並び、西側の窓の下に机がある。窓からは裏山が見えて、いつもはそこから入る陽の光でうっすらと部屋が明るいのだけれど、今日は雨で昼間とは思えないほど暗い。すでに電気もガスも水道も止まっているこの家では、部屋を明るくする方法はなかった。
けれど僕は、そんな暗い祖父の書斎に一つの光源があるのかと思った。
本棚の前に立って、本を手にしている女性が一人。
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