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腕の中で静かに目を瞑った君
「……おやすみ」
返事はない。それはこれからも永遠に
僕の未来は奪われたよ
もう他の誰かなんて愛せなくなってしまった
責任とって欲しかったけど、もう叶わない
一週間前、君の診断書をみつけた
そこに書いてあったことを、すぐには理解できなくて随分悩まされた
どうして病気が発覚した瞬間に
言ってくれなかったのか
どうしてひとりで抱え込んでしまったのか
どうして……
最後まで打ち明けてくれなかったのか
「……薄情者」
好きだ。大好きだ
でも、涙が出ない。こんなに悲しいのに
心に大きな穴があいた感覚だけが残る
君の動かなくなった手を握って
僕の体温を伝え続ける
その行動に意味なんてないけど
何故か、そうしていたかった
「ずっと一緒じゃなかったのか……?」
君の手を自分の?にあてた
手を伝って零れ落ちていく涙は、寂しげにみえた
一ヶ月という短い時間の中で
僕は何ができただろう
君に何をしてあげられただろう
あぁ、もういないんだ
この喪失感を僕は知っている
いつ知ったのかは忘れたけど、確かに覚えている
でも、思い出す気なんて別にない
現実から背けるように目を瞑った
何かを考えていたわけじゃないけど
脳内にぼんやりとしたものがうかんできた
これは何だろう。古い町並みか
京都っぽい雰囲気だけど……
見覚えは、あるような、ないような
「絶対、迎えにきてね」
綺麗な声が脳内に響く
「また貴方と恋がしたいの」
どこかで会ったことがある気がしてならなかった
足を止めたのも、それが気がかりで
「……そういうことだったのか」
何十年、何百年もの再会みたいだと感じていた
でも今、線と線が繋がった
ただの気がかりじゃない
君を迎えにいかなくては
たとえ、どんなに時間がかかったとしても
僕は君と何十年、何百年にもわたる約束をしてしまったのだから
「先は長そうだ」
僕達は何度でも恋をする
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